彼女にとって占いとは砂糖菓子と同じだった。
とても甘くて魅力的で、あったほうが嬉しくなれるしとても楽しい。なくても別段困らないが、たまに無性にほしくなる。
その程度の娯楽でしかなく、だからこそこのゲームを普通のゲームとして楽しめた。
[bloodyStars 12*4]
たまたまネットの記事でみかけて、かわいいアバターを作れるという理由だけで登録した。
ハンドルネームは、自分の名前をかわいくもじって「まりんば」
ゲーム性に馴染んできた頃に友人であるフジエを誘って、ただ素直に遊んでいた。
ところがふと思ったのだ。
水瓶座がバトルゲームで最下位になった翌日に、コンセントが抜けていた自室の冷凍庫から溶けたアイスを発見した時に、ふと思ったのだ。
運勢が一位の日に、当たり付きアイスをたくさん買ったら、どれだけの数が当たるのだろう。
そんな些細な疑問を満たすために、水瓶座の勝利に貢献することを誓った。
それくらい、彼女は運勢の要素を適当にみていて、適当なりにこのゲームを楽しんでいた。
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サソリのしっぽに似た髪型のアバターを見据えながら、鈴がくくられた杖を両手で握りしめ、魔法を放つ。
指輪にはめられたハート型の大きな石は赤色で、それはまりんばがA型であり魔法攻撃に特化していることを示している。
びゅうびゅうと魔法で生じた風が吹き、杖の鈴をちりりと鳴らす。風に吹かれた水分も戦場を吹き荒れて、小規模な嵐を作り出す。
秋時が振り返り、ばちりと目が合う。まりんばは構わず、杖を高く掲げた。
「背後注意報!」
言葉を発すると同時に、嵐を模した魔法が展開される。荒々しく乱れる風は凶暴かつ強引で、周囲のすべてを吹き飛ばし、しかしプレイヤーたちをその場に釘付けにさせる。
ほとんどまっさらになった戦場を一瞥し、まりんばは次の魔法を放つ。
「ぅおっしゃー!!」
先ほどの魔法が嵐なら、今度は大波だ。広範囲で威力も高い波が、まりんばの目前に生まれ出て、秋時やフジエ目がけて迫っていく。どこへ逃げても道はない、それほど大規模な魔法だ。
「随分と乱暴なことをする!」
槍を地面に突き立てて、それを中心に氷の柱を発生させる。秋時が作った即席の防護壁は波を裂いて発動者を保護する。まもなく大波は治まり、踏みとどまった秋時が槍を引き抜いてまりんばへ向ける。
まりんばは笑っていた。にこにこ笑っていた。
「蠍座の人、背後注意報だよ?」
まりんばの視界には、秋時と、フジエが映っていた。
"蓄積"した大波をハンマーに変換して大きく振りかぶった状態で秋時の真後ろに立ち、笑っているフジエが、はっきりと。